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(一) 相続税の評価における「広大地」の税務評価方法は、平成16年に大幅な改正があり、平成16年1月1日以降の相続等の評価から適用されている。 改正前の評価方法は、戸建住宅地域内にある広大地を戸建住宅の敷地に開発造成する場合に生じる道路・公園等の公共公益的用地による有効宅地の減(いわゆる減歩)を判定するための「開発想定図」を作成し、そして減歩のみを考慮しており、これに係る造成費開発負担金その他の費用は評価減に影響しない構成になっていた。 これについて、平成16年の改正において、具体的な「開発想定図」の作成は必要とせず、また、造成費等の開発費用を織り込んだ簡単な算式により、対象地の面積に応じて簡単に評価額を算出できるようになった。 このことにより、相続税の申告における広大地評価の手数は軽減されるとともに、広大地の評価減による相続税額の軽減をもたらした。
(二) しかし、その反面、その評価対象地が広大地に該当するか否かで、評価額が大きく異なることから、その判定をめぐって悲喜交々の問題が新たに発生している。 たとえば、住宅地域内に路線価20万円/uの1,000uの土地があったとき、通常の評価であれば2億円であるが、広大地と判定されれば、これに[0.6−{0.05×1,000u(土地面積)}÷1,000u]の式で求めた広大地補正率0.55を乗じて求めるので、その55%の1億1千万円と、評価額は大きく低下し、それに連動して相続税も大幅に軽減される。 であるから、評価対象地が広大地と判定されるかどうかが、天国と地獄の境目ということになる。
(三) 広大地に該当するか否かの具体的な判定の参考として、国税庁から「評価企画官情報」が公表されており、具体的なケースについては、この「情報」を参考として判定されるようになっている。 しかし、この「情報」は通達適用の判定基準を、同通達の趣旨を踏まえて具体的に例示しているものの、現実に生じるであろう個別的な全てのケースを対象とすることは当然に不可能であり、いくつかの典型的なタイプを掲げて、一般的・抽象的の表現ゆえに、その判定のボーダーラインにある土地については、異なる多様な解釈が生じ、ひいては納税者の困惑を招いているのも事実である。
(四) 「日税不動産鑑定士会」は、不動産鑑定士と税理士の両方の資格を有する者を主体として組織された会であり、昭和46年の発足以来、不動産鑑定評価理論を背景としつつ、税務評価の実務的適用を研究してきた。 今回、広大地の税務評価の具体的な適用について、当会の「税務評価研究会」で数次にわたる検討を重ね、また本会の研修テーマにも取り上げ、その意見も反映して、別記の分担による責任執筆によって本書をとりまとめた。
(五) 本書の構成については、現行の広大地評価通達は簡略化・算式化されたものとはいえ、その基盤は不動産鑑定評価理論に置いているものであることから、鑑定評価の理論から「広大地」が評価減される理論的根拠を解説し、その実務上の基準として定められている通達、またその参考である情報を、個別的な評価対象地の具体的な判定に当たってどのように解釈し適用していくのが、評価通達の規定に適合し、合理的であるのかという観点から論述した。 なお、評価通達が一般的なものを対象としているという性格上の限界から、この規定により評価することが不合理である場合も生じることもあるだろう。このような場合には、現状では、鑑定評価による時価評価にならざるをえないであろう。 しかし、課税の公平性という観点からは、課税庁において、具体的な申告例等を通して、より現実的な評価通達への改善を期待するところである。 平成20年10月11日 日税不動産鑑定士会 会長 下ア 寛
■鵜野 和夫(不動産鑑定士・税理士):T,U,V,W ■下ア 寛 (不動産鑑定士・税理士):X,Y,Z,[ ■菅原 和夫(不動産鑑定士) :T,U ■森田 義男(不動産鑑定士・税理士):V,W,X,Y,Z,[ (五十音順) | ||
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広大地の税務評価−広大地評価通達・企画官情報の問題点とその実務対策 − 目 次 − |
T.鑑定評価の基本的な考え方 不動産の価格(時価)に関しては、絶対的に正確といった評価額は存在しないのではあるまいか。仮に存在したとしても、現実にこれを見つけ出すことは困難であろう。 しかし、そうした中にあって、不動産の評価に関しては鑑定評価の手法によるものが最も正確(正確な評価額に最も近い)とされている。その一方、土地の相続評価はさまざまな制約から、やや画一的かつ大雑把にならざるをえないものとなっている。本書のテーマである広大地(面大地)の評価も、その例外ではない。 そこで、平成16年に改正された広大地に関する評価基本通達24-4(広大地の評価)の規定を的確に解釈していくにあたり、最も正確とされる鑑定評価による評価とはどのようなものなのかを検討しておく必要があると考える。 さらに、評価基本通達24-4は、多くの点で面大地(面積の広い土地)に関する鑑定評価の手法を参考にしている。したがって、その意味からも、鑑定評価の考え方等の把握は、この通達の規定を的確に解釈する上で必須であるといえよう。 以上から、最初の章である本章においては、評価基本通達の解釈に必要と思われる範囲で、鑑定評価の考え方等をなるべく平易に説明するとしたい。 1.鑑定評価とは 2.最有効使用 3.標準的使用 4.最有効使用を前提として把握される価格とは 5.近隣地域 6.建付減価 7.見込地・移行地 8.土地残余法 9.開発法
U.路線価評価の考え方 Tで鑑定評価の基本的な考え方について述べたが、本章では、相続税評価における広大地の評価を考えるに当たって、土地の相続税評価の中心をなす路線価評価方式とはどのようなものかを、鑑定評価と比較しつつ考えていく。 そもそも路線価評価は、必ずしも不動産の専門家ではない者が、個別性の強い多くの土地を比較的短期間で評価しなければならないという、厳しい制約を負っている。そこで、広大地評価の具体論にはいる前に、これらの厳しい制約等を確認しておきたいのである。 また、この章では、路線価評価を具体的に規定している評価基本通達、さらには広大地評価を考えるに際して大きな影響を与えている「資産評価企画官情報」(以下、「情報」という)の位置づけも明らかにしておくこととする。 1.時価と正常価格 2.相続税における評価の考え方 3.鑑定評価との比較 4.建物とその敷地との関係 5.「通達」とは 6.「資産評価企画官情報」とは
V.面大減価と開発行為 一般に宅地の価格は、面積が広くなるにつれてその単価は下がっていく傾向が強い。鑑定評価では、これを面大減価といっている。そして、本書が追求しようとしている相続税評価における広大地の規定は、この面大減価を評価に適正に反映させるための減額規定である。 したがって、広大地の規定を的確に理解するには、その背景となっている面大減価の実態とその理論的根拠を知る必要がある。そこで本章では、面大減価はどのようにして発生するのか等について説明する。 さらには、これらを把握するに際しては、「開発行為」という用語を理解する必要がある。「開発行為」ということばは、広大地に関する評価基本通達の規定におけるキーワードである。また、この規定の解釈に当たっては、国土交通省が定める「土地価格比準表」の一部の記載事項も重要な位置を占めている。 そこで、広大地の規定の説明に入る前に、本章でこれらの重要な概念や用語を解説する。こうした事前の準備が、それ以降の本論についての理解を大いに助けるものと考えるからである。 1.面大地と広大地 2.面大減価の発生原因−(1):取引総額の高額化 3.面大減価の発生原因−(2):開発事業者の存在 4.面大減価の発生原因−(3):開発許可制度 5.開発行為とは 6.位置指定道路 7.宅建業法の規制 8.面大増価 9.「土地価格比準」の性格
W.広大地評価通達規定の内容とその留意点 平成16年に広大地に関する評価基本通達(以下、広大地評価通達という)の規定は大改正された。従来の広大地の概念を変えないまま、開発事業者の負担する諸経費等を評価額に反映させたことにより、広大地補正率を大きく引き下げた。これにより面大地に関する相続税評価は、面大減価の実態をかなり的確に反映することとなったのである。 この広大地補正率は、鑑定評価の一手法である開発法をいわば「超簡略化」した形の算式により求められる。この点にも見られるように、改正規定は多くの面で鑑定評価の考え方を導入している。そして以上の諸点を含め、(一部に問題点を抱えてはいるものの)改正規定は全般的にみて妥当性を有しているといってよい。 ところで、広大地の適用がなされるかどうかは、土地の評価額(ひいては相続税額)にきわめて大きな影響を与える。 その一方で、広大地の規定を詳細にみていくと、あいまいな部分も散見される。さらにY以降で述べるとおり、課税当局から誤解を招きかねない情報やそれに基づく指示等がなされている。 このような中にあって、本書は評価の専門家の立場から、改正された広大地評価通達規定のあるべき解釈を明らかにする。 そこで本章では、主に広大地評価通達の「文言」と「主旨」を明らかにする。広大地評価通達規定の適正な解釈は、この「通達の文言」と「通達の趣旨」の双方を上手く融合させていくことによって導かれるからである。 1.路線価評価の以前の対応 2.現行の広大地評価通達規定の概要と改正の趣旨 3.広大地評価通達規定のポイント 4.広大地評価通達の「趣旨」と「文言」 5.広大地評価通達規定の妥当性 6.広大地評価通達の改正前と改正後の算式の違いと計算例 7.広大地評価通達規定を適用すべき面積 8.広大地評価通達規定の適用に当たっての判断基準 9.開発許可が受けられない場合等 10.広大地が無道路地等の場合 11.広大地評価通達規定の不合理を鑑定評価で主張できるか
X.マンション適地の判定 Wで述べたとおり、広大地評価通達は、面大地のうち大規模工場用地とともに、いわゆるマンション適地をこの通達の適用除外と規定している。つまり、マンション適地に該当してしまえば、あの大きな広大地の減額規定を受けることができなくなってしまう。マンション適地に該当するか否かは、その評価額ひいては相続税額に甚大な影響を与えることになるのである。 実は、マンション適地をうまく文書で定義することはできたとしても、具体的にこれを実施するに際しては、想定外の事情の発生を含め多くの実務的問題が生じる。また、マンション適地の定義に内在する重要な問題点もある。その一方で、「16年情報」に現実的かつ的確な判断基準が提供されている。そしてこれらは、広大地全体を理解する上で大きな地位を占めているのである。 そこで本章では、マンション適地か否かの判定に関して、これを多方面から検討する。 さらには、マンション適地の判断に際してキーワードとなっている容積率についても、その具体的な判断基準を含め詳細に説明したい。 1.マンション適地とは 2.経済的に最も合理的であると認められる開発行為 3.マンション混在地での判断 4.賃貸マンションの存在 5.マンション混在地の原則的手法 6.マンション適地の範囲・時期 7.マンション適地の判定 8.分譲マンション用地にするしかない土地 9.広大地を売却したところ・・・・・ 10.かなり高値のマンション用地の売買事例 11.容積率の考え方 12.建築基準法における容積率の制限 13.マンション適地の容積率をどう考えるか 14.容積率が200%未満の場合 15.容積率が300%以上の場合 16.地方都市における容積率300%以上の地域
Y.有効利用地と既に開発を了している土地 Wで述べたとおり、広大地評価通達は、この規定の適用を受けない面大地を大規模工場用地とマンション適地との二つに限定している。そして、この点は「通達の趣旨」の面からも妥当性を有している。 ところが、広大地評価通達の解釈指針ともいうべき「評価企画官情報」(「16年情報」)には、新たに「現に有効利用に供している土地」や「既に開発を了している土地」を、広大地の適用除外の対象に加えるといった記述がなされている。 しかし、これら二つを広大地規定の適用除外とすることは「通達の文言」と「通達の趣旨」の双方の面から妥当性を見い出すことはできない。さらには、「16年情報」のいう「有効利用」といった表現があまりにも漠然としているため、これへの実務的な対応が困難となっている。本章では、こうした問題をどう考えるべきかについて提言したい。 1.有効利用されている土地は広大地の適用除外か 2.評価規定の面から有効利用地をどう考えるか 3.有効利用の現状 4.地域の標準的使用に合致する有効利用 5.収益性の高い賃貸マンションの敷地 6.幹線道路沿いの郊外レストランの敷地 7.遠隔地での沿道サービス業務施設用地 8.「既に開発を了している」とは 9.「土地価格比準表」と広大地 10.「16年情報」の解釈が抱える実務上の問題点
Z.潰れ地の発生と「路地状敷地開発」 Uで説明したとおり、いわゆる潰れ地の発生は面大減価の要因の一つにすぎない。その点は広大地評価通達も的確に認識しており、規定内容は妥当性を確保している。 しかし、「17年情報」では、潰れ地が生じない土地については面大減価は発生しないとの見解が出され、平成20年6月刊の課税当局の評価担当部署が著した『解説書』では、潰れ地の発生を不要とする路地状敷地開発が可能な土地には広大地評価通達の適用はないとの判断が出された。 しかし潰れ地が発生しなくとも、かなりの面大減価が生じている土地も少なくない。路地状敷地開発を行うべき土地は、その典型である。したがって、当局のそうした解釈は、「通達の文言」と「通達の趣旨」の両面からみても誤りといわざるを得ない。 本章では、もう一つの潰れ地が生じない土地である「ヨーカン切り開発適地」との比較を含め、こうした問題を考えていきたい。 1.潰れ地の存在 2.「ヨーカン切り」開発適地は、なぜ減額できないのか 3.路地状敷地等とヨーカン切りの区分 4.路地状敷地には面大減価が生じているか 5.「17年情報」の「戸建分譲での潰れ地の有無で判断すべき」の意味 6.路地状開発適地等を開発許可申請したらどうなるか 7.評価規定の誤解はなぜ生じるのか 8.平成19年7月の裁決例を題材に 9.『解説書』に明示された広大地適用不可の意思 10.現実に適用できない評価規定では意味がない 11.開発許可を要する面積が広大地の前提ではないのか 12.評価額が下がりすぎる場合
[.その地域の標準的な面積とは 広大地評価通達は、広大地を「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」と規定している。これは一見すると広大地を的確に表現しているようにみえるが、実はこれは問題含みの定義となっている。 すなわち、明らかに面大減価が発生している面大地であるにもかかわらず、その土地が「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」出はない場合には、広大地に該当しないことになり、この減額規定が適用されないことになってしまう点である。 具体的には、中小工場地域と、都心部からかなり離れた農家住宅の多い地域の二つにそうした可能性が生じる。つまり、これらの地域における標準的な宅地の地積はかなり広いのであるが、既に潜在的な一般戸建住宅の需要が高くなっている場合には、それらには面大減価が生じているのである。 したがって本章では、ともするとこうした面大減価が評価に的確に反映されない点を指摘するとともに、実務的にそれにどのように対応すべきかについて論じていく。 1.周辺地域の標準的な面積 2.農家住宅が標準的な地域での広大地の適用 3.小規模工場用地の場合 4.標準的な面積と分譲面積
■ 広大地をめぐる最近の裁決例・判例 ■ 参照法令・通達・情報・その他 |
株式会社 プログレス
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(平成20年11月発行) |
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